KGC


慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
授業概要(シラバス)


言語とヒューマニティ (國枝 孝弘

    2018年度秋学期 水曜日1時限
    科目コード: C1108 / 2単位
    カテゴリ: 9.先端科目-総合政策系(学部)


1. 主題と目標/授業の手法など

    主題;喪失と表現
    内容:
     私たちの人生は、何かを得てゆく過程であると同時に、絶えず何かを失う過程であると捉えることができる。愛する人の死のように私たちの大きく揺るがす出来事もあれば、老いをむかえるにつれ、体力や記憶が弱くなるといった自分自身の中の喪失もある。希望や情熱といった精神的なものの喪失もある。また震災のような突然の、不慮の死もある。
     しかし私たちはどれだけこの絶対的事実を意識しているだろうか。私たちはそうした体験を得て初めて喪失に気づくのではないだろうか。さらにはたとえ体験しても、その体験の意味を私たちはどこまで考えているだろうか。大概は借り物のことばで済ませて、自らその意味を深く考えることもなく、日常をやり過ごしていないだろうか。
     この授業では、芸術体験を、そうした自動的に流れていく時間意識に抗し、生を新たな様相で捉える機会と考える。芸術は、私たちの生きる日常は、実は「こうでもありえる」と可能態として提示する行為であるとここでは定義する。具体的には喪失を喚起する機能を持つ芸術作品を取り上げて、その意義について考察する。
     もちろん、大きな疑問も同時に起こってくる。文学や芸術という「作品」に、「現実」そのものを表現する力は備わっているのだろうか。ことばや絵画は、喪失という私たちにとって過酷な現実を前に、力が及ばないのではないか。あるいは逆に芸術こそが、私たちを幻想へと誘い込み現実を見る目を曇らせてしまうのではないか。こうした疑問を持ちながらも、「芸術にできること」を深く考察してゆきたい。


2. 教材・参考文献

    授業中に案内する。


3. 授業計画

    第1回 イントロダクション
    この授業の方法・目的・鍵となる概念などについて説明をする。

    第2回 理論編1:記号論と表象
    この授業を進めるにあたって必要な、文学的、言語学的概念を整理する。第1
    回目は記号論という分析手法について。

    第3回 理論編2:意味論と表象
    この授業を進めるにあたって必要な、文学的、言語学的概念を整理する。第2
    回目は意味論という分析手法について。

    第4回 理論編3:芸術論と表象
    この授業を進めるにあたって必要な、文学的、言語学的概念を整理する。第3
    回目は芸術論という分析手法について。

    第5回 フロイト「喪とメランコリー」
    喪に関する基本的文献「喪とメランコリー」を読み、考察を行う。

    第6回 実践1:記憶と想像
    喪とは、過去に起きた喪失を現在において、その失われた存在を失われたもの
    と認識できず、存在し続けているとする意識の矛盾である。その際に大きな役
    割を果たすのが過去を喚起する記憶、そして、その過去を再構成する際の想像
    である。喪を考える上でこの記憶と想像という人間の根本的な行為を考える。

    第7回 喪失と表現
    喪において最も大きな体験は他者の死である。そしてその他者が「あなた」と
    呼びかけることのできる近しい人の場合と、「彼ら」と呼ばれる不特定、複数
    の人間の場合では、その表象の仕方は同じではない。死の表象は、私と死者の
    間でどのような関係のもとに現れるのか考える。

    第8回 実践3:病の表象
    病もまたひとつの災厄の現象である。蝕まれる自らの身体をどう表象するの
    か。不治の病という災厄にあり、それをどう受けとめ、言語化していくのか、
    人間の営為を見つめる。石牟礼道子『苦海浄土」を用いる。

    第9回 実践4:現代芸術と喪
    戦争、紛争など死にとりまかれるこの時代を現代芸術はどのように表象してい
    るか。またその表象のもたらす意味は何か。芸術の社会性という観点から、複
    数の作品を扱い、喪の表象の可能性について考察する。

    第10回 震災と表現(1)
    3.11を中心として、震災という出来事をもとに生まれてきた芸術作品における
    表現を考える。

    第11回 震災と表現(2)
    3.11を中心として、震災という出来事をもとに生まれてきた芸術作品における
    表現を考える。

    第12回 原爆と語り(1)
    戦後70年以上たった原爆体験の記憶と継承の問題を扱う。

    第13回 原爆と語り(2)
     戦後70年以上たった原爆体験の記憶と継承の問題を扱う。

    第14回 危機の時代と想像力
     現実の危機、災厄にたいして、文学的言語は意味をもつのか。大江健三郎の
    論に依拠して、災厄の時代における人間の批判的想像力の役割について考え
    る。


4. 提出課題・試験・成績評価の方法など

    1) 授業感想レポート(10回):20点
    毎回の授業時に授業の感想を書く。
    2) 授業ミニレポート(4回): 40点
    授業感想レポートを発展させる形でミニレポートを書く(いつの授業の感想にするかは自分で決める)
    2) 中間レポート:20点
    2000字以上のレポート
    3) 最終レポート:20点
    4000字程度のレポート


5. 履修上の注意・その他

    なし


6. 前提科目

    なし


7. 履修条件

    なし


8. 旧科目との関係

    なし


9. 授業URL


2018-07-21 15:14:15.647138


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