「喪」とは人間の存在についてどのような意味をもつのか、授業の計画を説 明するとともに、授業であつかう概念について説明する。
喪についての理論1:フロイトの「喪とメランコリー」を分析しながら、喪と いう体験は人間にとって どのような重みを持っているのか考察する。
失われたものはいったいどのように表現すればよいのだろうか?また私たち のアイデンティティは、 過去との関係においてどのように意味づけられうるのだろうか。喪失・過 去・表象の関連性について 考察してゆく
私たちは、つねに喪失したものを覚えている存在である。記憶は喪を考える 上で重要な要素である。 またそれは共同体の紐帯とものなりうる。過去の記憶と共同性の問題におい て喪の問題を考察する。
失恋という体験は、他者との関係を考える上できわめて本質的な問題を含ん でいる。他者を失うこ との否認、受け入れ、そして愛する対象への忘却がどのように表象されてい るのかを検討し、文学 的ディスクールにおける喪の作業の道程を考える。
歴史的な災厄の中で多くの人が死ぬ時、その人々は往々にして犠牲者として ひとくくりにされる運命にある。その中で一人一人の個別性はどのようにし て救い出すことができるのか、個人の記憶と表象の問題を考える。
私たちは、近親者の死を体験したとき、それをどのように表そうとするの か。かけがえのない存在の表象の難しさについて考える。
未曾有の民族大殺戮であったホロコーストはしばしば未曾有であるがゆえ に、「表象不可能」と言われる。この「不可能性」がはらむ言語表象の問題 について考える。
同じ歴史的事件を表象するにしても文学と歴史には微妙な差異がある。ディ スクールと修辞の問題から、歴史叙述について考察する。
歴史は過去を対象とする。その意味はすでに「不在」となったものについ て、いかに観察の対象を定め、分析・解釈をしていくかということである。 この歴史における現在と過去の関係について考えていく。
喪失するのは、他者の存在だけではない。故郷、言語、伝統など自分の所属 を明らかにするものをはぎとられた人々もいる。そうした文化事象の喪失と 表象について考える。
これまでの授業を振り返り、喪という他者の喪失の契機が、人間の生きる根 拠へどのように変貌するのか、その変貌における言語の役割を考える。